熱中症による後遺障害への賠償責任「逸失利益」について

この対談に登場する専門家

魚住 泰宏

弁護士。平成5年大阪弁護士会登録。平成26年大阪弁護士会副会長。令和2・3年日本弁護士連合会研修委員会委員長。日本労働法学会会員。経営法曹会議幹事。

人事労災に関する法律相談・紛争代理、労働関係の執筆・講演など幅広く活動する。

この対談に登場する専門家

平山 直樹

弁護士。令和元年大阪弁護士会登録。

人事労災に関する法律相談・紛争代理に積極的に取り組む。

奥山:従業員が熱中症に罹患し後遺障害が残った場合、使用者(企業)はどのような損害について賠償責任を負う可能性がありますか。

魚住:治療費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料等と逸失利益があります。

奥山:逸失利益は初めて聞きました。慰謝料等とは違うのですか?

平山:逸失利益は後遺障害が残ったことで得られなくなった(減少した)将来の収入に対する補償で、従業員の年齢が若い場合や労働能力喪失率が大きい場合は高額になります。

奥山:熱中症で後遺障害が生じた場合、逸失利益はどのくらいの金額になるのですか。

平山:後遺障害の逸失利益には次の計算式があります。

平山:この計算式からも分かるように、従業員の職業や年収、後遺障害等級等により逸失利益の金額は大きく異なります。特に、喪失期間は原則として就労可能年齢である67歳までの期間となりますので、例えば、被災者が25歳であれば42年間となり、これに対応するライプニッツ係数は23.701と高くなります。基礎収入や労働能力喪失率によっては逸失利益は高額になる可能性があります。

魚住:熱中症は年齢にかかわらず罹患するものですし、若い人でも亡くなるケースが多くあります。高額な賠償金を負担することのないよう、企業は熱中症の予防方法等を勉強し、従業員教育を行うなどしたり、専門家からアドバイスをもらったりすることが重要です。万が一、熱中症事故が発生したときは、弁護士から賠償金等全般について適切なアドバイスを受けることができます。

奥山:シリーズ後半は実際に裁判になった場合についてお話いただき、職場での熱中症労災は、企業と従業員の双方にとって恐ろしいことであると再認識しました。やはり、職場における熱中症予防対策は企業全体で取り組むもので、従業員一人ひとりにまで浸透させて実施していくことがきわめて重要ですね。