安全配慮義務として求められる「義務」とは?

この対談に登場する専門家

魚住 泰宏

弁護士。平成5年大阪弁護士会登録。平成26年大阪弁護士会副会長。令和2・3年日本弁護士連合会研修委員会委員長。日本労働法学会会員。経営法曹会議幹事。

人事労災に関する法律相談・紛争代理、労働関係の執筆・講演など幅広く活動する。

この対談に登場する専門家

平山 直樹

弁護士。令和元年大阪弁護士会登録。

人事労災に関する法律相談・紛争代理に積極的に取り組む。

安全配慮義務は労働契約法で定められている

奥山:前回は「安全配慮義務」の具体的内容は職場ごとに異なるので、それに合わせた判断が必要とのお話でしたが、もっと詳しく教えてください。

平山:はい、安全配慮義務については、労働契約法第5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められており、使用者の労働者に対する安全配慮義務が明文化されています。例えば、工場や建設・工事現場なら危険作業や有害物質等の作業環境のことだけを注意すればいいのではなく、日常的な作業者の健康保持やメンタルケアへの配慮も必要です。

魚住:この規定は、陸上自衛隊事件(最高裁小法廷判決昭和50年2月25日)や川義事件(最高裁小法廷判決昭和59年4月10日)の判例で確立された判例法理を明文化したものです。

平山:前者は、隊員が車両整備中にトラックにひかれて死亡した事件で、公務遂行のために国は公務員の生命・健康に配慮した安全環境整備を行う義務を示しています。後者は、単独での宿直勤務において、会社は社員の生命や身体を守るために配慮する義務を示しています。

魚住:いずれの判例においても、職種、地位、業務内容や労務提供場所等に合わせた、トラブル発生を予測した幅広い安全配慮が義務づけられました

奥山:もし、安全配慮義務に違反した場合、罰則などはあるのでしょうか?

平山:労働安全衛生法に規定された一部の義務違反には罰則があります。そのほかの安全配慮義務違反については、刑事責任を問われない限り罰則は存在しませんが、安全配慮義務を怠った場合、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)や国家賠償法等を根拠に、損害賠償請求権が発生する場合があります。前出の陸上自衛隊事件では、公務中の事故死に対する損害賠償責任が、雇用主である国にあると認められました。

奥山:安全配慮義務の違反内容について、もっと詳しく教えてください。

魚住:では、次回は「安全配慮義務に違反しているかの基準」についてお話していきましょう。